那古の海と深く結びついた信仰の場 補陀洛山 那古寺

補陀洛山(ふだらくさん) 那古寺(なごじ)は、千葉県館山市那古にあるお寺です。

補陀洛山 那古寺

千葉県館山市にある補陀洛山那古寺は、坂東三十三観音霊場の第三十三番、結願所として知られています。真言宗に属し、本尊には千手観世音菩薩が安置されています。奈良時代の養老元年(717年)、高僧・行基がこの地を訪れ、海中から得た霊木に観音像を刻んだという由緒が伝わっています。以来、祈願の場として多くの人々に信仰され、現在も巡礼が続いています。観音信仰の霊地として、古くから存在する寺院です。

補陀洛山 那古寺

那古寺には広々とした駐車場が用意されており、車で訪れる場合でもスムーズに利用することができます。房総半島の南端に位置し、館山自動車道からのアクセスも便利です。館山市街からも近く、周辺には海岸や道の駅などの立ち寄りスポットもあります。ドライブの途中に立ち寄る場所としても適しており、週末の散策にも向いています。

補陀洛山 那古寺

境内に入ると、見やすい位置に境内図と那古寺の解説が書かれた案内板があります。寺の歴史や由緒だけでなく、周辺のスポットについての情報もあり、初めて訪れる人でも理解しやすくなっています。坂東三十三所巡礼についても簡潔に触れられており、巡礼中の人々にとっても助かる内容です。看板の設置位置も工夫されていて、目に入りやすいのが嬉しいところです。

補陀洛山 那古寺

駐車場から境内へと続く参道には、「観音堂」と記された案内の道標があります。白いパイロンが目印となり、ゆるやかな坂を上るかたちで寺へと導かれます。舗装された道は歩きやすく、季節によっては草花も楽しむことができます。まっすぐに延びる参道を進むと、徐々に寺の建物が見えてきて、心が整っていくような感覚になります。

補陀洛山 那古寺

参道を進んだ先に構える仁王門は、1961年に再建されたものです。ただし記録によれば、1511年にも修理再建されたことがあり、かなり以前からこの地にあったことがわかります。朱塗りの門は重厚で風格があり、歴史の積み重ねを感じさせてくれます。門をくぐることで境内へと一歩踏み出すことができ、心も切り替わるような場所です。

補陀洛山 那古寺

仁王門の両脇には、寺院の守護神である金剛力士像が立っています。怒りの表情と力強い姿勢が印象的で、訪れる人を静かに見守っています。木彫の迫力ある造形は、細部まで丁寧に彫られており、職人の技を感じることができます。門をくぐる際にしっかりと見ておきたいポイントです。

補陀洛山 那古寺

境内全体は陽当たりが良く、風も心地よく通ります。掃き清められた参道や建物の周囲は、丁寧に手入れされており、清々しい雰囲気が広がっています。建物の配置も整っており、自然と足が進んでいくような心地よさがあります。静かな時間が流れており、落ち着いた気持ちで過ごすことができます。

補陀洛山 那古寺

境内には鐘撞き堂があり、鐘楼は1976年に建てられました。梵鐘も同じ年に新調されたものですが、1440年にはすでにこの地に鐘があったという記録が残っています。仁王門をくぐって右手には阿弥陀堂があり、鎌倉時代の阿弥陀如来像が安置されています。この建物は震災前から残っているもので、長い歴史を感じることができます。

補陀洛山 那古寺

境内にそびえる多宝塔は、江戸時代中期の建築で、内部には宝塔とともに多宝如来、釈迦如来が安置されています。さらに、1609年に作られた釈迦如来像も別に安置されており、見応えがあります。千葉県内で現存する多宝塔は非常に少なく、この那古寺と石堂寺の2基だけです。建築技法の変遷や、当時の美意識を学ぶ貴重な資料としても価値があります。

補陀洛山 那古寺

那古寺の中心となる観音堂は、1758年に再建された堂々たる建築です。五間四面の大きな建物で、入母屋造の屋根が特徴的です。堂内は内陣と外陣に分かれ、その境には建立時に奉納された龍の欄間彫刻が施されています。中央の宮殿には千手観音像が祀られ、その両脇には不動明王と地蔵菩薩の像が配されています。宮殿は1781年の建立で、精緻な造形が今も残されています。

補陀洛山 那古寺

観音堂は観音菩薩の別名である円通大士や大悲聖者にちなみ、円通閣や大悲殿とも呼ばれます。向拝に掲げられた額は1817年、松平定信の筆によるものです。定信は奥州白河藩主として館山の海岸警備にも携わった人物で、地縁も深い存在です。1819年には江戸での出開帳があり、築地の商人らによって奉納が行われました。その経緯も額に込められています。

補陀洛山 那古寺

観音堂の正面からは、那古の町並みが広がり、古刹の建物越しに館山の風景を一望することができます。まるで一枚の風景画のように静かで落ち着いた眺めです。

補陀洛山 那古寺

正面の日当たりの良い場所にはベンチが設けられており、参拝後に腰を下ろしてこの景色を楽しむことができます。心を整える場所として、自然と足を止めたくなる空間です。

補陀洛山 那古寺

観音堂の側にはペット専用の絵馬を奉納する場所があり、猫や犬の形をした板が並んでいます。板に色を塗ることができ、愛らしい姿に仕上げたものが多く見られます。ペットの健康や長寿、供養を願う場として利用されており、思いが込められた絵馬の数々が静かに並んでいます。このような現代的な要素も加わり、那古寺は新たな信仰のかたちを受け入れています。

補陀洛山 那古寺

那古寺の裏手は崖地となっており、そのふもとには大黒天を祀る大黒堂がありました。崖の上部には岩をくりぬいて建てられた岩船地蔵と竜王堂があり、岩船地蔵には舟型石に乗った地蔵菩薩が安置されていました。現在は、お堂はなく、大黒堂と書かれた一本の白い棒が残されています。

補陀洛山 那古寺

観音堂の西側には、石段で続く参道があります。その途中には「閼伽井(あかい)」と呼ばれる井戸があり、観音堂への供え水を汲む場所とされています。閼伽井の水は、仏への供養のための神聖なものとされ、昔から大切に扱われてきました。階段を上る途中で、この井戸の存在を目にすることで、心があらたまるような感覚を覚えます。

補陀洛山 那古寺

石段を登りきると、那古寺の裏手に日枝神社があります。神仏分離が行われる以前は山王権現を祀る鎮守堂として境内にありました。日枝神社は裏鬼門を守護する役割も持ち、長勝寺がその別当を担っていました。寺と神社の歴史的なつながりを感じる場所です。

補陀洛山 那古寺

那古寺の裏手には、豊かな木々に囲まれた静かな散策道が続いています。この道を進むと、潮音台展望台や式部夢山道へと向かうことができます。石段の途中から振り返ると、那古寺全景と多宝塔を望むことができ、その風景はまるで一幅の絵のようです。

補陀洛山 那古寺

補陀洛山 那古寺は、観音信仰の結びの場所として歴史的価値の高い寺院です。境内の整備も行き届いており、多くの建築物から時代の息遣いを感じることができます。巡礼の締めくくりにふさわしい落ち着いた空間が広がっています。

機会があれば、再度来てみたいですね。

それでは、また。