歴史を歩く神社 越谷総鎮守 久伊豆神社

越谷総鎮守 久伊豆神社は、埼玉県越谷市越ヶ谷にある神社です。

越谷総鎮守 久伊豆神社

埼玉県越谷市に鎮座する久伊豆神社は、大国主命(おおくにぬしのみこと)とその御子神である言代主命(ことしろぬしのみこと)を主祭神とし、古くから国造りの神、縁結びの神、福の神として信仰を集めてきました。平安時代以降は武士の信仰も篤く、近世には徳川将軍家も参詣した歴史を持ちます。

越谷総鎮守 久伊豆神社

参道を進んでいくと、第三鳥居があります。その手前には、伊豆久神社の社号標が立っています。余計な装飾は施されておらず、石に深く彫り込まれた文字が静かに存在感を放っています。目立つようでいて主張しすぎない佇まいに、この地で受け継がれてきた歴史を思わされます。

越谷総鎮守 久伊豆神社

参道の脇には、縁日で使われたと思しき露店の屋台が並んでいました。現在は営業していないようですが、行事の際にはここが賑わいの場になるのでしょう。こうした日常と非日常の交差点のような風景が、神社らしさを引き立てています。

越谷総鎮守 久伊豆神社

第三鳥居は、伊勢神宮から拝領された貴重な古材を用いて1995年に建立された特別な鳥居です。皇大神宮の内宮板垣南御門の材を使っており、歴史的・精神的な重みがひときわ感じられます。この鳥居をくぐることで、一層神域に近づいていく感覚を味わうことができます。

越谷総鎮守 久伊豆神社

第三鳥居のすぐ右手に位置する手水舎は、1675年に建てられたもので、歴史の重みを感じる建築です。龍の装飾には「登竜門」の意味が込められており、参拝前に身と心を清める場所としてふさわしい趣があります。今でも静かに清水が流れています。

越谷総鎮守 久伊豆神社

参道を進み、手水舎を過ぎた右手に「御霊水」が設けられています。境内に湧く霊水は、かつて自然に湧き出していましたが、関東大震災の影響により地下の水位が低下し、現在では深さ約250~300メートルの地下層からポンプで汲み上げています。

越谷総鎮守 久伊豆神社

訪れると、絶え間なく注がれる水の音が境内に響き、静かで落ち着いた雰囲気を感じることができます。もともとは自然に湧き出していた清らかな水で、古くから御神水として大切にされていました。現代においても、その霊験あらたかな水は健在で、参拝者が口にすることもできます。

越谷総鎮守 久伊豆神社

御霊水は水量が非常に豊富で、常に勢いよく流れ続けています。参拝者はこの水を持ち帰ることもできるようになっており、ペットボトルなどを用意すれば、自宅でも御神水をいただくことができます。近くには水質検査の結果書が掲示されており、安全性に配慮されている点にも安心感があります。神社の細やかな心遣いが感じられます。

越谷総鎮守 久伊豆神社

神楽殿は境内の一角にあり、神前で神楽を奏でるための専用の建物です。祭礼や特別な祈願の際に、神職によって雅楽や舞が奉納されるこの空間は、神聖な儀式の中心となる場所でもあります。伝統的な様式で建てられており、静けさの中に神事の荘厳さを感じることができます。晴れの日には、厳かで華やかな雰囲気が漂います。

越谷総鎮守 久伊豆神社

古札納所は、役目を終えた御札や御守を納めるための場所です。正月三が日には、ここに納められた御神札が境内でお焚き上げされ、新しい年の平安を願う儀式が行われます。納所はいつでも利用することができ、古い御守などを丁寧に返納することができます。火に還されることで、感謝とともに清らかな区切りをつけることができます。

越谷総鎮守 久伊豆神社

拝殿の前には一対の石灯籠が据えられていますが、よく見るとまっすぐではなく、わずかに斜めに配置されています。この配置には視覚的な奥行きや動きを持たせる工夫が感じられ、参道から拝殿へ向かう流れを自然に導いているようにも思えました。神社建築の奥深さを改めて感じます。

越谷総鎮守 久伊豆神社

毎年の例祭で神輿の渡御還御が行われますが、その日はなぜか雨が多いという話が伝えられています。そんな中、神輿の出発と帰還の瞬間だけでも濡れずに済むようにと建てられたのが、1964年完成のこの拝殿です。屋根の設計にはその想いが込められ、実用と信仰が見事に融合しています。雨と神事が結びついた、独自の歴史を感じさせます。

越谷総鎮守 久伊豆神社

拝殿の正面から参道を振り返ると、3つの鳥居が一直線に並び、まるで空へ向かって延びているかのように感じられます。この直線の美しさは、境内の中心軸としての意味だけでなく、心の中の道筋を正すような感覚を与えてくれます。鳥居越しに見る光景は、どの角度からでも印象的で、写真映えするスポットです。

越谷総鎮守 久伊豆神社

拝殿の右手(東側)には奥へ続く静かな通路があり、木漏れ日の中を進むと、また違った神社の顔を見ることができます。境内の中心から外れたこの道は、人通りも少なく、落ち着いた雰囲気。散策するだけでも心が洗われるような感覚があり、少し脇にそれるだけで、別世界に入り込んだような趣を感じられます。

越谷総鎮守 久伊豆神社

夕方に拝殿を見上げると、屋根の上に伸びる千木(ちぎ)が逆光に浮かび上がり、くっきりとしたシルエットとなって空に映えます。特に雲の少ない晴天の日には、千木の先端が空に溶け込みながらも力強く立っており、時間帯によって変わる光の中で、拝殿の印象もがらりと変わっていきます。夕刻の境内もまた、格別です。

越谷総鎮守 久伊豆神社

久伊豆神社の境内にある「旧官幣大社南洋神社鎮座跡地 遥拝殿」は、かつて南洋群島(現・パラオ共和国)に存在していた「南洋神社」への敬意を込めて建てられた建物です。戦後、その祭祀は終わりましたが、多くの兵士たちが南方で祈りを捧げた事実は忘れられません。2004年、久伊豆神社内にこの遥拝殿が建立され、慰霊と顕彰の場として今も大切にされています。戦地に赴いた人々の祈りの記憶が、静かに受け継がれています。

越谷総鎮守 久伊豆神社

南洋神社のすぐ隣に位置する八坂神社は、小さな社ながらも凛とした空気をたたえています。鳥居の扁額には「八坂神社」とあり、独立した神社のような存在感があります。境内にしっかりと根を下ろし、疫病除けの神・素戔嗚尊(すさのおのみこと)をお祀りしていると思われ、配置や構えからも、長い年月を重ねた歴史がそっと伝わってきます。

越谷総鎮守 久伊豆神社

拝殿の北側にある小さな社殿群には、全国各地で篤く信仰されてきた神々を祀る摂末社が並びます。そのうちの7社は、特に神徳が深いとされる神々を越谷の地にもお迎えしたいという思いから勧請されたと伝えられます。境内の一角に集まるその姿は、まるで神々の寄り合いのようでもあり、それぞれに小さな鳥居や扁額が備えられていて丁寧な造りが印象に残ります。

越谷総鎮守 久伊豆神社

摂末社のそれぞれには年中行事としての祭日が定められていて、その日に合わせて神職による祭典が厳かに執り行われます。祭典を通して、それぞれの神様の御神徳を賜ることができるよう、地域と神社が共に祈りを重ねています。こうした摂末社への信仰の厚さからも、久伊豆神社が単なる一社にとどまらず、複合的な神域としての性格を持っていることが感じられます。

越谷総鎮守 久伊豆神社

摂末社の各社殿には、神社名が書かれた札が掲げられていて、どの神様が祀られているのかがひと目で分かるようになっています。訪れた際にはそれぞれの社名を読みながら、神社めぐりのような気持ちで散策することができます。神話に登場する神々や、全国に知られる信仰の神など、それぞれの背景を思い浮かべながら手を合わせると、一層意味深い時間になります。

越谷総鎮守 久伊豆神社

久伊豆神社の北側には、社叢が広がります。社叢は、境内の奥に広がる豊かな緑に包まれた空間です。古木が立ち並び、まるで森のような深さを感じますが、立ち入りは禁止されており、ロープがしっかりと張られていました。その静けさと佇まいは、神域としての結界を感じさせ、木々の葉擦れや鳥の声だけが響き渡る特別な場所です。人の手が加わらない自然のままの姿に、神々への畏敬とともに深い守りの意味があります。

越谷総鎮守 久伊豆神社

久伊豆神社は、長い参道を歩きながら複数の鳥居をくぐり、境内へと導かれる構造が特徴的です。各所に歴史と意味が込められており、一歩一歩の歩みが心を整えてくれます。

機会があれば、再度来てみたいですね。

それでは、また。